第 181 号
「東アジア前近代の学校と教育に関する国際シンポジウム」に参加
 平成21年10月3日(土)に岡山県備前市にある閑谷学校教育センターを会場に「東アジア前近代の学校と教育に関する国際シンポジウム」が開催され参加させて頂きました。
 岡山人間論ゼミ師友会の赤澤大史教授と森泰伯氏から御案内を受け今回のシンポジウムに参加することとなりました。赤澤氏・森氏は儒学者でもあった備中松山藩山田方谷先生を深く敬愛し、研究をされており、今回のシンポジウムは陽明学の先哲、岡田武彦先生の高弟である難波征男先生(現在は福岡女子大学教授)が文部科学省認定特定領域研究「東アジアの海域交流と日本伝統文化の形成」プロジェクトの延長で山田方谷ゆかりの閑谷学校を会場に「東アジア(中国・韓国・日本)の儒学第一人者が集まったシンポジウムが開かれ朱子学・陽明学の真髄を聞ける」とのお誘いを頂き参加させていただいたのが経緯です。

 朝から学校建築物としては世界最古のもとの言われる旧閑谷学校の見学が行われましたが、時間の関係で私たちは記念講演から参加させて頂きました。記念講演は中国哲学史学会会長でもある北京大学教授の陳来先生より行われ、中国の朱子学と陽明学の歴史概要とその意味について詳しくご説明いただき、現代社会にも大いに役立つものとしてのご意見を発表されました。何分頂いた資料が全て漢文で、通訳の方がご説明してくださいますが、資料を目で追うのが精一杯で非常に高度な内容でした。ただ、陽明学の説明のなかで、当時の学生たちは「百里而来・三宿而去」つまりは百里も離れたところから学び舎に通い、三日学んで帰るといった大変な状況下で、勉学に励んでおり、多くの学生が深夜まで師と問答をしていたというお話を聞いて、今の学校教育が行われる遥か昔には、苦労してでも学びたいという学生たちの熱意が感じられ、現代の学校教育の現場では果たしてどれだけの学生が本気で学びたいと思って通っているのかを考えたとき学校環境や教育制度等々、果たしてこれでいいものかと複雑な心境にかられました。

 午後からは中国・韓国・日本の書院(中国の宋代以降に発達した私立学校)の歴史と特徴について、中国からは湖南大学岳麓書院のケ洪波教授・韓国からは韓国国民大学の趙峻皓教授・日本からは福岡女学院大学の難波征男教授らにより研究発表が行われました。朱子学の歴史から行くと中国は1200年の歴史があり日本は600年ほどとのことであり、興味深かったのは日本の歴史の中で、当時印刷技術が発達する前には、本が中々手に入らない貴重なもので、その持ち主のところへ本を見せてもらいにいくことから、学校の基礎が芽生えたようであることでした。それぞれの国に歴史と特徴があり、それをいかにして今の時代に活かしていくかという今回のテーマの確信には、残念ながら到達するには至りませんでした。後の感想発表の中でもその意見は出席者の大学教授も述べておりました。それぞれの国にある歴史と現状を尊重したうえで、如何に各国が連携するかについては、教育の壁を越えた様々な問題もあると思いますので、なかなか限られた時間では難しいとは思いますが、同じ学問をルーツにもつ国同士で共通点を見出し互いに認め合い助け合える関係が、これを機会に一層密になることに期待したいと思います。
 シンポジウムの後に閑谷学校を見学しました。講堂の屋根瓦には備前焼が使用され独特の色合いと風格があり、とても立派な学び舎であったようです。
 閑谷学校は寛文10年(1670年)に天下の三賢候の一人と呼ばれた藩主池田光政の命により、現在の建造物が完成されたのは2代藩主綱政のころ(1701年)とのことです。世界最古の庶民の学校として国宝や重要文化財として大切に現在も保存され古の学び舎の姿を今に伝えていました。今回のシンポジウムの会場として最適の場所であると感じました。
平成21年10月3日
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