松下幸之助氏が創立したPHP研究所の「経営経済研究所設置発願之辞」に次の様な思いが述べられています。「この時に際し、明治初年の為政者達を考えてみたい。彼らは決して所謂権威ある勉学をしてきた人ばかりではない。彼等は体験を豊富に積んだ経営者であったのである。勉強は各々自分でしてきた独学の人なのである。(中略)よく大勢に順応して次第次第に発展をもたらし、ついには一等国にまで推し進めてきたのである。このように明治初年の人々の教育というものは所謂寺子屋式のごくわずかなものでもって、しかも世界をみる事ができる教育だったのである。」真の教育とは、設備を整えカリュキュラムを充実させ、優秀な教授陣を整えればできるのもかという松下幸之助氏の問題提起です。教育とは何かを考える時、大切なことは松下村塾や適塾から明治の近代化を進めた指導者が育った事実をもう一度、再認識しなければなりません。
我が国は、明治初年から学制を整え、世界に先駆けて義務教育制度を導入し、富国強兵をスローガンに欧米列強に対抗すべく、強力に国づくりを進めてきました。しかし、「その後、国の発展と共に甚大な国費を持って施設を設け多数の国民を立派に養成した。この恵みに預かった人々が今日の時代の指導者である。従ってこれ等の人々が本当の教育の真髄にふれたものであったならば、社会の発展、国力の増進について誤りのない正しい方策を樹立して堅実なる国家の歩みが続けられたであろう。しかるに事実はそうではなかった。国家の経営は成功するどころか却って不合理な戦いを引き起こし破滅の域に追い込んだのである。この事は結局、形の教育はできても実質に於いて真の教育が行われていなかった事を意味する。為政者に本当の国家経営の理念が把握されていなかった事になる。」と発願之辞には述べられています。
義務教育によって国民の教育水準は世界トップレベルにまで高められたものの、その国民を指導する立場に立たなければならない指導者の育成、いわゆるリーダー育成にこそ、真の教育を施せなかったところに問題があったと強い反省の思いが述べられています。
我々も昨今の社会情勢を省みる時、必ず辿りつく問題点が教育の在り方です。現代社会の様々な根源が学校教育だけでなく、家庭教育・社会教育・人間教育といった一人ひとりの人間としてのモラルに、その課題があることが見えてきます。多くの方がその事に気づき、行動を起こしています。私たちも微力ではありますが、毎週水曜日に意見交換を行いながら、先ずは個人個人がその問題点を意識し確認することから、一歩一歩前に進んでいこうとしています。
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